最初は最果ての国に真吾くんが名前をつける予定だったのですが結局やめました最終的に使わなかったエピソードのひとつ↓
日が昇っている間にやるべきことを、すなわち領内の行政、地理、信仰、この不思議な国のありようを学ぶ。日が落ちると僕はゆったり友と語らう。真吾の頭の中で、この国の姿がおぼろげながら見え始めてくる。なるほど確かに、ここはひとつのユートピアだ。飢えも争いもすべて、苦痛の源となるものはことごとく排除され、人々は平穏のゆりかごの中でまどろんでいる。
王さま役もだいぶ板に付いてきたと言いたいところだったが、現実はそうもいかない。僕にとってはけっこう深刻だけど、客観的にみると取るに足らない災難が今日もやってくる。
真吾は軽く息を弾ませながら柱の陰に身を隠した。今日は逃げ切れるかもしれない。そんな甘い考えを一瞬抱いたが、遅かった。柔らかい手が四方八方から伸びてきて、あっという間に女官につかまってしまった。館の悪魔の居城で女悪魔たちに捕まったときのトラウマが蘇り、真吾は身を固くしたがなにもかも後の祭りである。最初に断固として拒否できなかった自分の態度のあいまいさが悪いといえば悪いのだ。お風呂は一人で入りたい。半強制的に世話を焼かれるので、本当に僕って王さまなのかなと不思議に思ったりもする。真吾としては丁重に辞退しているつもりなのだが、いたずら盛りの少年がふざけて逃げ回っているだけだと思われているのだろう。現に、女官たちは嬌声を上げながら真吾を追い駆け回してくる。違う、追いかけっこじゃないんだ。百目まで追い駆けてこなくていいんだ。かといってこんなことで使徒に助けを求めるのもあまりに情けないし、領内の人々に疎まれるよりは過保護なくらい世話を焼かれるほうがましではある。たとえ僕がメシアであろうと王さまであろうと、人生なにもかも思い通りってわけにはいかないのさ。ため息交じりに悟ったようなことを頭の片隅で思いながら真吾は哀れ囚われの身となったのだった。
この出来事を覚え書きに加えるのはやめよう。
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